AWS学習はじめ方 基本サービス理解
SIerエンジニアがAWSを学ぶ意義
多くのSIerにおけるシステム開発は、お客様先に物理的なサーバーを設置するオンプレミス環境を中心に行われてきました。しかし、近年、特に事業会社ではクラウドサービスの利用が急速に進んでいます。これは、開発スピードの向上、コスト最適化、運用負荷の軽減、そしてスケーラビリティの高さといったクラウドならではのメリットが評価されているためです。
事業会社への転職を目指すSIerエンジニアにとって、クラウド、中でも市場シェアの大きいAWS(Amazon Web Services)の知識と経験は、必須スキルと言えるでしょう。AWSを理解することは、単に新しい技術を習得するだけでなく、モダンな開発・運用文化やビジネスの変化に柔軟に対応できるエンジニアへの第一歩となります。
本記事では、AWS学習をこれから始める方向けに、AWSの基本的な考え方と、最初に押さえておくべき主要サービスについて解説します。
AWSの基本概念
AWSの学習を始めるにあたり、まずいくつかの基本的な概念を理解しておくことが重要です。
- クラウドコンピューティング: インターネット経由でサーバーやストレージ、データベースなどのITリソースを利用する形態です。物理的なハードウェアを自前で管理する必要がなくなります。
- リージョン: AWSの物理的なデータセンターが設置されている地理的な地域です。東京リージョン、オハイオリージョンなどがあります。サービスを利用する際は、いずれかのリージョンを選択します。
- アベイラビリティゾーン (AZ): リージョン内に複数存在する、物理的に独立したデータセンター群です。AZ間でシステムを構成することで、高い可用性を実現できます。各AZは互いに十分な距離を置いて設置されており、一つのAZで障害が発生しても他のAZでサービスを継続できます。
- AWSアカウント: AWSサービスを利用するための契約単位です。アカウント内で利用したサービスに対して課金が発生します。セキュリティ管理の観点から、用途に応じて複数のアカウントを使い分けることが推奨されます。
これらの概念は、AWSの様々なサービスを理解する上での基礎となります。
AWS学習で最初に理解すべき主要サービス
AWSには非常に多くのサービスがありますが、最初から全てを学ぶ必要はありません。多くのシステム構築で基盤となる、重要度の高いサービスから順に理解を進めるのが効率的です。SIerでのインフラ・サーバーサイドの経験がある方であれば、以下のサービスから着手することをおすすめします。
-
Amazon VPC (Virtual Private Cloud):
- AWSクラウド内に独自の仮想ネットワーク環境を構築するサービスです。IPアドレス範囲、サブネット、ルートテーブル、ネットワークゲートウェイなどを自由に設定できます。
- オンプレミスのネットワーク構成に慣れている方にとって、VPCはAWS環境のネットワーク設計の基礎となるため、最初にしっかりと理解する必要があります。パブリックサブネット、プライベートサブネット、インターネットゲートウェイ、NATゲートウェイといった要素が重要になります。
-
Amazon EC2 (Elastic Compute Cloud):
- AWSクラウド上で仮想サーバー(インスタンス)を起動できるサービスです。CPU、メモリ、ストレージなどのスペックを選択し、様々なOSをインストールして利用できます。
- オンプレミスで物理サーバーや仮想マシンを扱っていた経験が活かせます。インスタンスタイプ、AMI(Amazon Machine Image)、セキュリティグループ、キーペアといった概念を理解することが重要です。
-
Amazon S3 (Simple Storage Service):
- インターネットストレージサービスです。ファイルやオブジェクトを安全かつスケーラブルに保存、取得できます。静的Webサイトホスティングやバックアップ先としても利用されます。
- オンプレミスのファイルサーバーやストレージとは異なるオブジェクトストレージという概念ですが、非常に多用されるサービスであり、そのシンプルさから比較的学習しやすいでしょう。バケット、オブジェクト、アクセス権限、ストレージクラスといった概念がポイントです。
-
Amazon RDS (Relational Database Service):
- AWSクラウド上でリレーショナルデータベースを簡単にセットアップ、運用、スケールできるマネージドサービスです。主要なデータベースエンジン(MySQL, PostgreSQL, Oracle, SQL Serverなど)に対応しています。
- オンプレミスでデータベースサーバーの構築・運用経験がある方にとって、RDSは運用負荷を大幅に軽減できるマネージドサービスの代表例として理解する価値が高いです。インスタンス管理、ストレージ、マルチAZ配置、リードレプリカといった概念を学びます。
-
IAM (Identity and Access Management):
- AWSリソースへのアクセスを安全に管理するためのサービスです。ユーザー、グループ、ロールを作成し、それぞれにきめ細やかな権限(ポリシー)を付与することで、誰がどのサービスにどのような操作を行えるかを制御します。
- セキュリティの要となるサービスであり、AWSを安全に利用するために非常に重要です。AWS学習の初期段階で、アカウントとユーザー、ポリシーの基本だけでも理解しておくべきです。
AWS学習の進め方
これらの基本サービスを理解するための具体的な学習方法としては、以下が考えられます。
-
公式ドキュメントとAWS Black Belt Online Seminar:
- AWSの公式サイトには、各サービスの詳細なドキュメントが豊富に用意されています。最初は概要やGetting Startedガイドから読み進めると良いでしょう。
- AWS Black Belt Online Seminarは、各サービスについて専門家が詳しく解説した動画コンテンツです。日本語で提供されており、視覚的に理解を深めるのに役立ちます。
-
AWS無料利用枠の活用:
- AWSには、新規アカウント作成から1年間、特定のサービスを一定の範囲内で無料で利用できる「無料利用枠」があります。これを利用して、実際にVPCを構築したり、EC2インスタンスを起動したりするなど、手を動かして学ぶことが最も効果的です。
-
AWS Workshops:
- 特定のテーマに沿って、実際にAWSサービスを操作しながら学べる実践的なハンズオン形式の教材です。ステップバイステップで進められるため、初心者でも安心して取り組めます。
-
資格取得に向けた学習:
- AWS認定資格は、体系的に知識を習得するための一つの目標となります。特に「AWS認定クラウドプラクティショナー」は、クラウドおよびAWSの基本的な知識を問う入門レベルの資格であり、最初の目標として最適です。その次のステップとして「AWS認定ソリューションアーキテクト – アソシエイト」を目指すと、より実践的なアーキテクチャの知識が身につきます。資格試験の公式ガイドやサンプル問題も学習の参考になります。
これらの方法を組み合わせながら、まずは基本となるVPC、EC2、S3、RDS、IAMを、実際にAWS上で触りながら学習を進めてみてください。
まとめ
SIerから事業会社へのキャリアチェンジにおいて、クラウド技術の習得は非常に価値のあるステップです。AWS学習の第一歩として、本記事で解説した基本概念と主要サービス(VPC, EC2, S3, RDS, IAM)の役割と使い方を理解し、AWS無料利用枠を活用して実際に手を動かすことから始めてみましょう。
体系的な学習や実務での活用方法に行き詰まった際は、AWSコミュニティの活用や、経験者からのアドバイスを求めることも有効な選択肢となり得ます。着実に学習を進め、クラウドスキルを身につけていきましょう。